ハシッコばっかりメにトマル。(仮)

フリーライター、キクタヒロシのブログです。新刊『昭和の怖い漫画 知られざる個性派怪奇マンガの世界』発売中です!

四ツ眼怪談

前の記事で蔵書の整理をしていると書きましたが、気になった貸本マンガを書庫へしまい込む前にご紹介しておきます。

 

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立美八景先生の『四ツ眼怪談』。

多分昭和40~41年くらいの作品です。著者の故・立美先生は貸本マンガ末期に青春ものやギャグマンガを中心に残されており、このような怪奇ものは珍しいはずです。

 

で、如何なるストーリーなのかと申しますと、花屋を営む母が入院してしまったため店番をしていた少女さゆりは、毎日一輪の赤いバラを買いに来る青年・影彦に恋をします。そしてそれは影彦も同様でした。さゆりを目当てに日々花屋へ通っていたのです。 

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f:id:buraburablue:20160306012836j:plain(←赤いバラを買い続けるキザが似合う顔してます(?))

そしてある日、さゆりが狂犬に襲われているのを影彦が助けました。さゆりを背に庇うと先に逃がし、狂犬を退治したのです。これをきっかけに二人の仲は急接近しました。

が、ただ一点、さゆりには気にかかる事が…。退治された狂犬は、眼球が飛び出し息絶えていたのです…。 

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といったお話です。

ここからネタバレしますが、影彦の一族はみな眼が四つあり、多くついている二つの眼で他人を睨むと、相手の眼球が飛び出してしまうという、不可解な能力を持っていました(このギミックはいばら美喜先生が昭和30年代から何作品もで使用しておりますので、参考にされたのかも知れません)。さらには少女の生血を啜らなければ生きていけないという、非常に難儀な性質だったのです。

そのために影彦は少女を誘惑しては屋敷に誘い込み、その毒牙にかけていたのですね。

 

しかし、今回は違いました。影彦はさゆりを本当に愛してしまったのです。影彦はさゆりと結婚したいと両親に懇願しますが、両親は納得せず、さゆりに襲いかかります。ここで影彦は両親を魔性の眼で睨みつけて、眼球を奪います。親より愛するさゆりを選択したのです。

しかし、その惨状に怯えるさゆりを見て、この眼が怖いなら、と自ら針で魔性の眼の一つを潰すものの、さらにさゆりは怯えるばかり…。

両親を裏切り、自ら眼を潰したにも関わらず自分を受け入れないさゆりに対し影彦は逆上、自分のものにならぬなら、と残った魔性の眼でさゆりを亡き者にしようとするのでした。 

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この作品、ストーリーだけ追ったなら、しっかりとした「怖いマンガ」であるのですが、その怖さを打ち消してしまうものがあります。

 

それはどこかしらユーモラスな立美先生の画風。

 

人物が止まっている場面やアップの場面ではあまり感じないのですが、なぜか動きのある描写の場面だと、表情と動きがデフォルメされて、ギャグマンガのようなタッチとなってしまうのです。これは登場人物の頭身が低いせいもあるかもしれませんが、そのせいで影彦一族が正体を現すドキドキするような場面でも緊迫感が感じられず、あっけらかんとした印象さえ感じます。 

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当たり前ですが、作風にあった作画って本当に大事ですね。

 

 

最後にもう一つ、この作品が収録されている本について。

この作品は『殺しの依頼書』というアンソロジーに収録されています。表紙には畠大輔、背表紙には竹田きくおの名もあるものの、立美先生の名は表記されておりません。

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この表紙とタイトルの本に、怪奇作品が収録されているとは思わないですよね。元より表紙絵は中身と全く関係の無い影丸譲也(『空手バカ一代』『ワル』などの作画で有名ですね)が描いています。これだから貸本マンガは表紙で判断してはならないのです(笑)。